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潰瘍性大腸炎の現在と将来 希望を持って

大河原森本医院の森本崇です。
安倍首相が辞任されましたね。
その日の午後はもちろん外来中だったのですが、ちょうど潰瘍性大腸炎(UCと略します)の患者さんがいらっしゃって、今ニュースでやってますよ、と教えていただき知りました。
さて、安倍首相のこれまでの業績がどうだったかということについては様々な意見があると思いますが、UCという病気を患いながらもここまで重責を全うされた事実は内視鏡専門医として素直に感服してしまいます。本当にお疲れさまでした。

UCは若年発症が特徴な病気なのですが、その発症するタイミングとして精神的身体的ストレスや疲れが典型的です。私がこれまで拝見してきたケースでも、冬にインフルエンザをきっかけに下痢が始まり、おかしいなと思っていたら最後は血便が出現し診断される、という経過の子がいましたし、期末試験前や受験生が発症することもよくありました。イメージとしては、今まで自身の免疫力で抑えていた病勢が、免疫力・抵抗力の低下で顕在化してくる、といった感じでしょうか。

私が、治療に臨まれる患者さんとそのご家族にまず初めに必ず伝えるのは、「UCの人とそれ以外の人の寿命は変わらない」ということです1)
要するに、UCは多くの場合うまく付き合っていける病気なのです。コントロールさえしっかりしていけば、進学、就職、結婚、妊娠と、健康な方とほぼ変わらずに送ることも可能です。食事だって、体調が落ち着いている時は他の人と同じものを食べることができます。それは、安倍さんが総理大臣にまでなれたことからもはっきりしています。確かに、毎日内服薬を飲まないといけないかもしれませんし、場合によっては自分で坐薬を入れないといけないかもしれません。それでも、症状による日常生活の制限が少なくて済むというのは何事にもかえられません。
ただし、日々の内服薬、坐薬といった治療を怠ると、途端に症状が再燃する可能性が高くなります。どうしてもこの病気は若い方が多いので、皆さん年齢相応に忙しい時間を過ごしています。その中で薬の使用を忘れてしまったり、出張先に持っていくのを忘れたりするのです。実際、統計学的にも、落ち着いていたUCが再燃する要因として最も多いのは「怠薬」であると示されています2)。私が医者になった時には基本となる治療薬は2〜3種類しかなく、しかもそれは1日3回も内服する必要がありました。仕事をしていると、昼の薬は正直邪魔だと思います。今は、1日1回内服が基本となっており、肛門から入れる薬も硬い坐薬だけでなくムースタイプのものもあるのでとても使いやすくなっています。坐薬を入れた直後は肛門周囲にとても気を使いますからね。
点滴で投与する生物学的製剤などの治療薬も、軌道に乗れば2ヶ月に1度、日帰り数時間でOKとなってきており、日常生活との両立にかなり寄与できるようになってきました。
そうして日々の体調を維持していくことで「寛解維持期間」を継続していくことができますし、将来的な大腸がん発がんのリスクを抑制することができます。そう、UCは腹痛、血便で体調を悪化させるだけでなく、将来的に大腸がんを発症しやすくなることも大きな問題なのです。以前発表された論文では、発症30年後で20%弱に発症するといった報告がありましたが3)、現在はそこまで高くはないのでは、というのが定説となっています。それでも一般の方と比較すると、炎症を繰り返した大腸粘膜は発がんリスクが高いので、いくら落ち着いているといってもUCの患者さんは定期的な大腸内視鏡検査がやはり必要となります。
病気になってしまった事実は残念ながら変えられませんし、現代の医学では基本的に一生付き合っていく必要があります。それは、この病気の患者さんの体調が良くなった時の状態を「完治」とは言わず、「寛解」と表現することからもわかります。しかし、良くも悪くもこの病気は世界中で大変増えてきています。日本でも患者さんが増えてきたために治療費の補助を受けられる条件が厳しくなりました。ただ、患者さんが多いということは、その治療法の研究も日進月歩で進んでいるのです。前向きに治療を続けることでいつか「完治」を迎えられると信じて現在の治療にしっかり向かい合っていただきたいと思います。

参考文献:
1) Ekbom A, Helmick CG, Zack M, et al : Survival and causes of death in patients with inflammatory bowel disease : a population-based study. Gastroenterology 103 ; 954-960, 1992
2) Eaden J:Review article:colorectal carcinoma and inflammatory bowel disease. Aliment Pharmacol Ther 20 : 24-30, 2004
3) Ekbom A, Helmick C, Zack M et al: Ulcerative colitis and colorectal cancer. A population based study. N Engl J Med 323 ; 1228-1233, 1990